【新・ニラ醤油麹日記(第10話・嘆きのらんらん:前編)】
「経験値」というのは時には仇となる。
瓶にさえ詰めれば、あとはもう呆気ないくらいに早い…、そう思っていた。
まさにネギ塩麹がそうだった。仕込んだ翌日には麹が潰れて嵩が減り、翌々日には完成していたのだ。
しかし、宮崎さんと高知さんときたら、なんの因果か、翌日の今日も、発酵が進んでいる様子が全く見受けられない。
気温もネギ塩麹を作った時より高いはずなのに何故？
「もしかして、今回は前にネットで調べた通り、完成までに1週間くらいかかるパターンなんやろか…。」
らんらんは思わずため息をついた。
それは決して、宮崎さんと高知さんを、今後1週間近くかき混ぜねばいけない煩わしさからではなかった。本来であれば、むしろその時間は、幸せを噛みしめるべき理想の日々なのだ。
そう、らんらんの心に暗い影を落としたのは、全く別の理由だった。